東京郊外に建つ築40年を超える集合住宅の一室を購入し
施主自ら設計を行った自邸リノベーションプロジェクトである。
設計テーマは「曖昧な理想の具現化」
人生で幾度とない自邸デザイン。自分自身は何が好きで、理想の生活とは何か。自問自答の日々が続くも明確な答えにたどりつかず、まるで逃げ水を追うような感覚に陥りながら気づけば現場に足しげく通うようになっていた。
当該住居は敷地北側に共用廊下、南側にバルコニーを配した一般的な片廊下型の集合住宅である。敷地南側には前面道路を介して公園があり、その先は用途地域が第一種低層住居専用地域であることから室内の日当たりが確約されていた。さらに敷地周辺は自然豊かで郊外ならではの落ち着いた空気感がなんとも心地良く、この部屋にどこか郷愁的な感覚を味わった。これらの既存ポテンシャルを活かしながら、穏やかで優しい空間でありつつも凛とした空間をつくりたい。そんな漠然と頭に浮かんだ蜃気楼のような曖昧な理想を空間に落とし込めるよう試みた。
色彩計画は全体的にコントラストを弱めた色調とすることで淡く幻想的な空間とし、部屋自体は主張を控えることで家具や小物、季節の花々等の“住まい手自身の色”が空間のアクセントカラーとして映えるよう計画した。
リビングは床、壁、天井に至るまで青を含んだ明るい色調で統一することで、まるで海辺の蜃気楼を見るような境界が曖昧で淡く幻想的な空間とし、一方でダイニング・キッチンは対照的に青を含んだ暗めの色調で統一。境界の曖昧な空間において、コントラストに緩急を持たせた凛々しい空間とした。
また既存のコンクリート壁や梁は決して綺麗とは言えない状態であったが、あえて一部をむき出し、粗い部分を残すことで、凛々しさの中にある種の“隙”が垣間見えるどこか人間的な魅力を放つ空間とした。
リノベーションを通じて自問自答を繰り返し、曖昧な理想を一つ一つ丁寧に拾い上げ、自らの住まいとして具現化する。“自身の現在地を映す鏡” であるこの部屋を「蜃気楼の部屋 ― Mirage Room」と呼んでみる。
【文:川内聡士】