リノベーションが⼀般化された現在、更新期を迎える⽬ぼしい中古マンションは買取再販不動産会社によって次々と画⼀的な改修が⾏われてしまう現状がある。本計画は、時間的・空間的な都市の隙間を縫う部分的な改修でありながら、そこに⽴脚し、愛着ある物にぐるりと囲まれた⾃分達ためだけの空間を勝ち取る切実な想いから派⽣している。部分改修の新たな⼿法のとして⼀端を担う計画としたい。
【 文: 伯耆原洋太 】
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本を開くと、頭の中をぐるぐると⾔葉が巡り、窓を開くと、街と街をぐるぐると鉄道や⾞が駆けている。内と外は⼀体に繋がって活動を続けている。⾮所有が推し進む世の流れの中で、過去の⾃分を引き摺りながら蓄積した愛着あるものに囲まれた設計者⾃邸を計画した。
敷地はスカイツリーふもとの密集住宅地にあり、マンション⼀室の部分改修プロジェクトである。マンションの⼀室でありながら、⽬の前を幹線道路が通り、部屋と同じレベルを鉄道が⾛るなど、都市交通の動きをダイレクトに感得できる位置にある。
既存はすでに買取再販不動産会社によって改修がなされており、規格化された仕様は築20 年超の⼀室を⼿際よく整えてはいたが、独特な平⾯形状がもつポテンシャルを抑え込んでいるような印象も与えた。
今回の改修では、すでにリノベーションされた仕上げ⾯までをある⼀つの地形・コンテクストとして捉え、その中で寄⽣するように最低限の操作で空間全体に最⼤限影響を及ぼしながら、都市活動全体の⼀部として拡がっていく私的な居住空間の在り様を模索した。
リビングをぐるりと⼀周する本棚。本棚の中に開⼝、動線を組み込むことでリズム作っている。本棚上部に伸びる円環のフィンには照明・空調機器や透明度を操作するカーテンが取り付く。
住み⼿の現住居には多くの書籍が蓄積し、その物量に⼿をこまねきながらも、思い⼊れのある様々な物に囲まれた暮らしを要望していた。そこで、間取りの中央に円環の本棚を計画し、⽂字通りぐるりと360 度包み込まれた空間の中⼼部をリビングとすることで、物と住み⼿が臨場感ある暮らしを展開できると考えた。既存マンションは区画整備の中で出来た鋭⾓の辺を持ち、デッドスペースの最⼩化と交差点からの景観の観点から、外壁が⼀部R を描いている。外壁に⽤いられた特徴的なR の線をミラーし、内部空間へき込むことを考えた。外壁から内部にかけて連続するR の円環の本棚が⾻格となり、そこに動線や建具、ベンチ等を組み込ませることで、既存の⼩部屋、廊下、キッチン、洗⾯、腰窓が本棚に絡みつくような関係を持たせた。
円環の本棚の背景には各部屋がまとわりつき、様々な奥⾏を与える。カーテン、開き⼾、引⼾等の設えの差がリビングに表情を作る。
円卓を取り囲む円環の本棚とその先を駆ける鉄道。雁⾏しながら繋がる空間の中を鉄道が横断する。リビングは様々な⾏為で溢れ、本棚はそれを受け⼊れる⾻格となる。お⼦さん⽤の⼩さな絵本・ピシッと揃った⽂庫・⼤きな美術本など、本の多様なスケールと表情をゾーン毎に割り付けた。
事業優先の既存リノベーションを下地とし、最⼤限既存を⽣かしながら、少ない操作で居⼼地の良い空間を獲得しようとするのはある種⽭盾を孕んでいる。そこで、既存の仕上げ⾯に施された新調のビニルクロスや新調の⽊調フロアタイルの微細な凹凸もしくは平滑⾯を本計画の地形や下地として捉え、新築やフルリノベーションでは起こり得ない様相を積極的に受け⼊れた。例えば、既存のビニルクロス⾯の上に塗装を加えている部分と、新設ボード⾯の上に塗装を加えている部分が同⼀⾯に併存している。その新旧2つを跨ぐように左官塗装を施すことで、ある種のムラの⼀部として繋げながら、既存の間取りが浮かび上がる陰影として捉えている。
マンション外壁の曲線を内部空間へ引き込むことで作られる間取りの⾻格としての円環。⽞関、廊下部分からみると円環の本棚は迎え⼊れるキャノピーとして浮かび上がる。
マンション外壁の曲線を内部空間へ引き込むことで作られる間取りの⾻格としての円環。⽞関、廊下部分からみると円環の本棚は迎え⼊れるキャノピーとして浮かび上がる。
お⼦さんへの配慮として本棚の⼩⼝はR 形状とし、⽔平基調をより強調するためにベニヤ材を使⽤した。棚板は垂直⽀持材より50mm 勝たせている。⽔平ラインを強調し伸びやかさを作りながら、コーヒー等を置けるさりげない場所として暮らしの拠り所とした。リビングと各室を繋ぐ動線部は吊り⼾棚となり、上部にはぐるりと⼀周、照明を配置している。吊り⼾棚にはカーテンレールを組込み、空間を仕切る機能を持たせている。
雁⾏しながらつながる空間と円環の本棚が交わる中央にφ1200 の円卓を造作した。本棚の⽔平フィンと同じフィレットした断⾯形状とし、ぐるりとどこにでも椅⼦を配置できるよう中央⼀本⾜のデザインとした。
円環の本棚の上部となるFL+1900 より上は設備を組み込んでいる。円環の本棚と均衡を保つように、⼤梁に沿わせて⾦属曲げ材の造作照明を計画した。眼光する空間性をより強調するように対⾓に伸びてい くパンチングパターンを施した。
リノベーションが⼀般化された現在、更新期を迎える⽬ぼしい中古マンションは買取再販不動産会社によって次々と画⼀的な改修が⾏われてしまう現状がある。本計画は、時間的・空間的な都市の隙間を縫う部分的な改修でありながら、そこに⽴脚し、愛着ある物にぐるりと囲まれた⾃分達ためだけの空間を勝ち取る切実な想いから派⽣している。部分改修の新たな⼿法のとして⼀端を担う計画としたい。
【 文: 伯耆原洋太 】
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種別 |
リノベーション |
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構造規模 |
RC造 |
設計 |
HAMS and, Studio + 風間健 |
設計担当 |
伯耆原洋太 |
施工 |
ルーヴィス |
施工管理 |
武井空以 |
計画面積 |
62m2 |
撮影 |
中村晃 |
所在地 |
東京都 |