グランドピアノの設置を前提とした、マンション一室の改修プロジェクトである。
音楽と地続きの生活をテーマに、防音性能によって空間を分節するのではなく、住まいの中心であり、一日の大半を過ごすリビングにグランドピアノを大胆に配置した。ピアノに触れる行為を生活動線の内部に溶け込ませることで、音楽を特別な時間として切り分けるのではなく、日常の中から自然に立ち上がる空間のあり方を模索している。本計画は、音と行為、そして空間が相互に影響し合う、リズミカルな空間構成の具現化を目指した試みである。
窓の先には、空の広がりの中を、隅田川の緩やかな流れと、高速道路を行き交う車両の光の連なりが、異なるリズムで並走している。そこには、都心にありながらも穏やかな水辺の気配と、人工的なインフラが生み出す強い運動エネルギーとが、同時に存在している。こうした相反するスケールやリズムが共存する環境に呼応するように、室内には、ピアノの持つ優美な曲線と、そこから生まれる多様なリズムや音色のイメージを重ね合わせた。
壁や廊下には、動きを受け流すような緩やかな形状を与え、カーテンには、複雑さと奥行きを感じさせる質感を採用している。内外に存在する有機的な動きや時間の流れを空間のディテールへと翻訳することで、音楽・都市・生活が一体となった住まいを立ち上げた。(文:施主)