2026/04/23 【シゴト】UPSIDE DOWN SHIBUYA

シゴト

WORKS
326

UPSIDE DOWN SHIBUYA

渋谷駅から代官山へと続く、商業圏と住宅圏が交差する丘の中腹に位置するこのゲストハウスは、旅の体験を通して新しい自分と出会うための「さかさまの余白」として構想された。

単なる宿泊施設ではなく、旅の中で得た刺激を自分の中で静かに還流させ、新たな価値観に気づくための時間と空間の余白──それが「UPSIDE DOWN」である。室内は、渋谷の起伏に富んだ地形を取り込むように、床も天井も階段状に構成されている。海抜22mを可視化する「光の窓」を軸に、地上・地表・地中の高さが緩やかに連なる立体的な一室空間。座る、横になる、もたれる、登る、眺める──多様な姿勢を受け入れながらの家族や友人仲間との集いの時間は、身体感覚と思考が互いを刺激し合う。木戸を開ければ、都市に潜む自然や街の暮らしを思いがけない角度で切り取る窓が現れ、日常をその外側から眺めるように視点が反転する。この地は、かつての鎌倉街道沿いに位置し、付近には旅人がひと息つく茶庵が点在していたと伝えられる。茶庵は単なる休息の場ではなく、行き交う人々や遠くに望む山里の風景の中にあって、自らの日常を眺め返す小さな余白でもあった。UPSIDE DOWNは、その往還の記憶を継承しながら、コンクリートとガラスのスケルトンに、熱・光・風・音・湿気を調整する機能的なレイヤーを重ねてプライバシーを確保している。廃棄されるはずだった衣類や木くずから作られた再生繊維フェルトや木繊維断熱材、間伐材、葦簀など、日本各地から集めた再生素材と自然素材によって、環境と人との関係をやわらかくつなぎ直し循環させる。その関係性が室内風景を作り、同時に旅を通して世界を眺め返す新たな視点場を立ち上げる仕掛けとなっている。

たとえば、室内の写真を180度ひっくり返しても、そこに映る空間は段々の床と天井が反転したもう一つの現実世界のようにも見える。それもまた「UPSIDE DOWN」の体験のひとつである。ここでの体験を通して自らの価値観に静かな揺さぶりを掛け、それを家族や友人と共有し、新しい自分と出会うための、旅の中にある自己変容を誘発するデザイン。UPSIDE DOWNは、現代都市における人と環境、非日常と日常のあいだに新たな関係を織りなそうとしているのである。

【文・平井政俊建築設計事務所

CREDIT

種別

リノベーション

構造規模

RC造地下一階

設計

平井政俊建築設計事務所

設計担当

平井政俊、栗林太地、北村一真

施工

ルーヴィス

施工管理

平井聡吾

計画面積

38㎡

撮影

中村晃

所在地

東京都渋谷区猿楽町

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